製品開発・試作のサイクルタイム大幅短縮と量産まで

少ないエネルギー密度で造形可能、高速造形できるステンレス鋼粉末

今回のニュースは、AM(3D)向けに新しく開発された金属粉末材料技術のお話です。

 

ODECとしては、ステンレス鋼のAM造形(SUS630、SUS316L、SUS420J2など)に強みを持ち、造形品の提供に取り組んでいます。

このステンレス材質に限らずですが、AMにおいて、緻密性(密度)の高い造形を行うためには、材料ごとに最適なパラメータ開発を行う必要があり、そのパラメータによっては、かなりの造形時間がかかることがあります。また、この緻密性を高めるためには、一般的には造形時のエネルギー密度(※)を高める必要があり、エネルギー密度を高めるためには、時間をかけて造形を行うこと(造形スピード等)が必要となります。

 

※エネルギー密度とは・・・単位体積当たりのエネルギー、単位は「J/m3」となり、種々の分野で使われます。AM(3D)においては、レーザー照射面(点)にかかるエネルギーのことをさしており、レーザーの強度(W)や照射間隔、スピードなどから計算することができます。

 

 

凝固の“足場”添加で密度や強度アップ、金属3Dプリンター向け粉末材料(2022.7.13 日経クロステック)

 

開発した SUS316Lステンレス鋼粉末を用いて造形した名古屋工業大学学章メダル。

(名古屋工業大学HPプレスリリースからの引用)

 

このニュースのポイント

〇 名古屋工業大学と東京都立産業技術研究センターの研究グループが、従来の粉末と比べ、小さいエネルギー密度、高速造形が可能な3Dプリンタ用ステンレス鋼粉末を開発した。

〇 このステンレス鋼は、鋳造や溶接工学で用いられる理論をもとに、開発された新材料。SUS316LにSrOを添加することで、造形時の焼結(または溶融)を均一化し、少ないエネルギー(密度)でも内部欠陥を抑え、緻密性の高い造形ができるということ。

〇 従来の粉末と比べ、組織微細化と欠陥の低減による強度向上が可能で、今後は、社会実験や企業コンソーシアム、展示会等での幅広い活用を目指す。

 

 

造形速度(スキャン速度)を上げても、造形密度が維持される。

この開発されたステンレス鋼は、造形速度を上げても、緻密な造形ができるという点が大きな特徴であるとのことです。通常、同じレーザー強度の場合、スキャン速度を上げると造形密度は下がる傾向となります。【下図】

 

【図①】

(名古屋工業大学HPプレスリリースからの引用)

 

スキャン速度を上げても造形密度が下がらない(下がりずらい)理由としては、少ないエネルギー密度で緻密な造形ができやすい組成になっているということがあるようです。【下図②】ただし気になるのは、エネルギー密度が上がった場合、従来品は造形の密度が向上することに対し、開発品は造形密度が低下傾向にあることです。我々も、過去の材料開発における知見により、エネルギー密度を一定以上高めると、造形の密度が低下するということがあることも分かっていますので、まだまだ研究が必要な部分があるのかもしれません。

 

【図②】

(名古屋工業大学HPプレスリリースからの引用)

 

AM(3D)における今後の金属粉末材料技術の展開は?

現状、AMで使用可能な金属材質の種類は、かなり限定的な状況であるので、今後も市場のニーズに合わせて、新たな粉末が開発されていくことが予想されます。AM技術は、まだこれからの新しい技術分野であるので、様々な研究開発が必要となります。我々も、このような技術の進展に注視して、サービスを提供していけたらと考えています。

 

 

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