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「固溶化」「析出硬化」「時効処理」など熱処理について解説【第77回】

産業設備など、特に強度が求められる製品の加工を行っていると、熱処理がどうしても必要となってきます。

3Dプリンターにおいては、高温のレーザーや電子ビームを使用して造形を行うので、この熱の影響によるそりなどが発生するケースがあり、また、このそりを発生させる力は、残留応力として造形物の内部に残ることから、これに対応するために熱処理(ひずみ抑制)を行うことがあります。このように3Dプリンターによる造形物においても後処理工程として必要となることが多い、「熱処理」について解説していきたいと思います。

 

 

 

熱処理とは何か?

熱処理とは、炭素を含む金属(主に鉄鋼材)の加熱・冷却することで生じる組織変化を活用し、素材の性質や耐摩耗性を向上させる処理方法のこと。

代表的な熱処理方法として、「焼入れ」「焼戻し」「焼なまし」「焼ならし」があり、鉄鋼材を硬くしたり軟らかくしたりすることができます。

 

 

熱処理の基本

 

■焼入れ 目的:鋼を硬くする
「焼入れ」は、鋼を硬くすることを目的に行われます。
焼入れをすることで、硬度を高めることができますが、脆く割れやすくなるため、基本的には「焼入れ」後に「焼戻し」と呼ばれる硬度を弱め、粘りを増加させる処理を併せて行います。

 

■焼戻し 目的:鋼を粘り強くする
「焼戻し」は、焼入れや焼ならしを行った鋼について、硬度を弱め、粘りを増加させることを目的に行います。焼入れ後の鋼は、硬度は高いですが脆く衝撃に弱いため、焼戻しを行い、機械部品に適した硬さに調節したり、耐衝撃性を付加したりします。

 

■焼なまし 目的:鋼を軟らかくする
「焼なまし」は、主に切削加工しやすくするために、鋼を軟らかくすることを目的に行われ、加工ムラや割れを防ぐことができます。

 

■焼ならし 目的:鋼の組織を均一にする
「焼ならし」は、鋼材を製造する際に生じる組織のムラを均一化し、耐衝撃性などの機械的性質を向上させることを目的に行われます。

 

 

熱処理の種類

 

■固溶化処理(溶体化処理)

 

「溶体化処理」とも呼ばれます。 適温に加熱・保持し、材料の合金成分を固体の中に溶かし込み(固溶させる)、析出物を出さないように急冷する処理です。 オーステナイト系ステンレスに対して行われる事が多いのですが、目的は加工・溶接などによって生じた内部応力の除去、劣化した耐食性の向上など組織改善の為に行います。

3Dプリンターで固溶化処理が行われる材質としては、SUS316Lがあります。1010~1150°程度の高温で加熱を行うことで、残留応力の除去や、耐食性の向上などを期待できます。

ただし、固溶化処理を行うことによりひずみを生じるケースもあり、製品が仕上がっている際に実施する場合は、注意が必要です。

 

■時効処理(析出効果処理)

 

「時効」とは、時間とともに硬さなどの機械的性質が変化することを言います。さらに、温度を加えて、時間変態を促進させる処理を「時効処理」といいます。それに伴って硬さ、耐食性などを変化します。

析出硬化系のステンレスやマルエージング鋼などでは、モリブデン、チタン、銅、アルミニウムなどが鋼の中に溶け込んでいる状態で400-600℃程度に温度を上げると、それらが析出して硬化します。

中でも、SUS630やSUH660等、析出硬化系ステンレス鋼の鋼中に溶け込んだ炭化物を析出させ硬度を上げる処理を「析出硬化処理」といい、前処理としては固溶化処理が必要になります。硬度を重視するH900(470~490℃/AC)から靭性を重視するH1150(610~630℃/AC)まで4段階の熱処理がJISに規定されています。

 

■高周波焼入・焼戻し

 

鋼部品の外周や内面に近接したコイルに高周波誘導電流を通すとコイルに磁力が発生し、同時に鋼部品に渦電流が発生します。この渦電流は表皮効果によって鋼部品の表面に集まり、誘導電流による抵抗熱で表面が急速加熱されます。
その後直ちに、水などの冷却液で急速冷却することで、鋼材の表面だけを硬化します。これが高周波焼入れです。しかし、加熱したままでは靱性が低下するため、150~200度の低温で焼戻しを行います。高周波焼入れは耐摩耗性、内部には靭性を兼ね備えることができ、耐疲労性も非常に優れています。

 

■浸炭焼入れ

 

浸炭性雰囲気中で加熱し、製品表層部に炭素を浸透させて焼入を行う操作のことです。
浸炭方法としては、固体、液体、ガス浸炭があります。焼戻温度は一般的に150~200℃程度で、主に肌焼鋼が使用されます。前処理として焼ならしを行います。
浸炭焼入れは、表面は硬く耐摩耗性に優れ、内部は靭性に優れた特性が得られます。

 

■真空熱処理

 

真空熱処理とは、真空中で加熱、冷却する熱処理のことです。
通常の大気中で行う熱処理は、大気中の酸素と鋼が化学反応を起こし、鋼の表面が酸化して黒くなります。一方、真空熱処理では、熱処理炉内を真空状態にして熱処理を行うため、鋼の表面が酸化せず光沢が保たれます。

 

■窒化処理

 

窒化処理とは鋼に窒素を拡散進入し、鋼の表面を硬く仕上げる事です。
アンモニアガスなどを利用し化学変化で製品表面0.03~0.3mm程度の硬化層ができます。
金属そのものを化合させるため寸法の変化が小さく、また加熱温度が焼入れに比べて低いため、金属そのものの変形が少ないことも特徴です。
窒化処理の目的として、耐摩耗性、耐疲労性、耐腐食性、耐熱性の向上です。

 

■アニール処理

 

主にプラスチックにおける成形品の残留ひずみを取り除くために行う熱処理のことです。特に肉厚が厚いものの場合、残留応力、残留ひずみが残りやすいので、アニール処理が非常に有効となるケースがあります。

 

 

 

製品の使用目的に応じた最適な熱処理を。

このように強度の向上や、品質の安定のために、熱処理が必要となりますが、それだけではなく、弊社で造形が可能な銅合金の材料においても、造形後の熱処理を行うことで、導電率が再現されるというような素材もあり、どうしてもAMと熱処理は切っても切れない関係なのかなと思います。

 

製品の強度アップや品質安定のための熱処理も、必要に応じご提案させていただいておりますので、AM造形品についてお困りの場合は、お気軽にご相談ください。