前回は、「デジタルツインとなにか」をコラムで取り上げました。
今回は、製造業で「デジタル・ツイン」を活用した取り組みで成果を上げている事例をご紹介いたします。
生産計画をデジタルツインの考え方で成果を挙げている一例が、石川県に本社を置く、ある素材加工業者。設備停止は以前から認識し、課題視していたが、パトライトにセンサーを設置し稼働率を測定したところ、感覚的には80%ほどだと思っていた設備の平均稼働率が50%を割り込んでいた。そこから32台の工作機械を対象に、停止要因や稼働状況をリアルタイムに監視するデジタルツインシステムを構築。データから作成したモデルを生産シミュレーションソフトウェアで計算した結果、生産効率はすぐに30%向上。生産計画の立案も、毎週4〜5時間かけていたものが数分に短縮。
航空機エンジンのメンテナンスでもデジタルツインは活用されている。航空機ではエンジンに取り付けた200ものセンサーからリアルタイムに情報を収集しており、エンジンの状況をそれぞれリアルタイムで把握。万が一の事態が発生する前に不具合を検知して、メンテナンスに出せるのは航空機の安全性を確保する上で大きな安心材料となってる。
また、航空機は部品に高い安全性が要求されるので、不具合を起こす前に確実に取り換えるのが重要だが、その頻度は経験上のデータから割り出されていた。少し先のメンテナンスや交換で問題ない場合でも、前倒して実施しており、結果的にコストがかかっていた現状がある。デジタルツインで取得したデータをもとに適切な頻度でメンテナンスや交換ができれば、余計なコストをかけずに安全に運航できる。
あるレーシングカーの開発現場では、試作車両のテストとしてセンサーを取り付けてコースを走らせ、そのデータをCAD上のデジタル製品に連携させて確認するというデジタルツインの活用が行われている。これまでセンサーが取得したデータを見るだけでは分からなかったような、細かなフレームの不良などを瞬時に把握し、開発に役立てているという。
海外のある工業製品メーカーでは、デジタルツインを用いたエレベーター設計を展開。この会社では、エレベーターを設置する建物を測量して、その建物をデジタルツインで再現。そのデータをもとにエレベーターの設計を行うことで、実際に設置する建物に施行する工程が設計段階で確認できることで、現場での作業時間を短縮でき、施工期間を60%短縮することに成功したとのこと。
施工する建物を仮想空間上にデジタルツインとして再現し、それを利用して設計を進めることで、施工期間の大幅な短縮。また、「MR(※)」を組み合わせることで、仕上がりのイメージを視覚的に提供することもできます。
※MR(Mixed Reality):「複合現実」のこと。仮想世界を現実世界に映し出すARとは異なり、現実世界の情報を仮想世界に映し出すことが可能。
現在は設計段階でのデジタルツインの活用がメインとなっているようです。徐々に成果が出つつあるデジタルツイン活用をさらに一歩前に進めるのは、金属3Dプリンターとデジタルツインとの連携だと思います。我々としては、どこまでのものが、金属3Dプリンターで再現できるのか、さらにノウハウを蓄えていきたいと思います。