製品開発・試作のサイクルタイム大幅短縮と量産まで

金属3Dプリンター設備の選び方(バインダージェッティング)【第52回】

近年生産能力の高さを売りにした、金属3Dプリンターが続々とリリースされています。その中でも、「バインダージェッティング」方式の金属3Dプリンターは、造形スピードが早く生産性の高さに大きな注目を集めています。当コラムでも以前取り上げましたが(【第22回】近年注目のバインダージェット方式について(エックスワンが新しいバインダーを発表))、記事のアクセス数も多く、開発者の皆様も大きな興味を寄せていることと思います。

 

今回は、そのバインダージェッティング造形方式について、「どんなメーカーがあるのか」「ほかの造形方式に対する優位性」「またはデメリット」など、掘り下げていきたいと思います。

 

 

バインダージェッティング方式とは

インクジェット方式とも呼ばれます。平らに敷き詰めた金属の粉末にノズルから選択的に液体の結合材(バインダ)を噴射して固形化する方式で、材料には金属以外にも樹脂、石膏、砂などがあり様々な用途で使用されています。樹脂材料の場合、バインダに着色して吹き付けることでカラー表現も可能です。

 

(引用:i-MAKER 「インクジェット3Dプリンターの原理と仕組み。種類と製法を公開」)

 

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バインダージェッティング方式の優位性は?

 

■サポート構造が不要

パウダーベッド(SLM/EBM)方式ではモデルの構造によっては変形防止のためのサポート構造が必要ですが、バインダージェッティング方式では周囲の粉末がサポートの役割を果たすためサポート構造を造形する必要がありません。そのため、サポート除去を行う工数が削減され、生産性を向上させることができます。このサポート設計や除去をどのように行うかが、金属3Dプリンター造形を行う上で、最も苦労する部分でもあり、ノウハウであったもします。これが必要ないということは、金属3Dプリンター造形をこれから始める方々にとっても、非常に大きなメリットとなると思います。

 

■造形速度の速さ

バインダージェッティング方式は、造形のスピードが速いことが大きな特長の一つです。金属3Dプリンターは、造形スペースが限られていることもあり、造形速度の速さが生産性やコストに直結してきます。そのため、大量生産が必要な自動車分野(海外)においては、バインダージェッティング方式における金属3Dプリンターで製作された部品が実用化されています。

 

■造形物のカラーリング

色がついた結合剤(バインダー)を使用することで、造形品をカラーリングすることができます。複数種類の色のバインダーを使用することもできるので、デザイン性の高い、一般消費財の製品化にはうってつけの造形方法ともいえると思います。

 

 

バインダージェッティング方式のデメリットは?

逆に、バインダージェッティング方式における、デメリットを考えていきます。

第一には、「造形品の強度」の問題があります。バインダージェッティングは、造形した後、強度を上げるための焼結や含浸処理のプロセスが必要となります。(その工程にかかる工数と設備が必要になります。)このプロセスを行ったうえでも、造形品の強度は、パウダーベッド方式などと比較すると低く、耐久性が必要なもの、工業用製品などに使用することは不向きであるといえます。

また、上記の焼結プロセスにより造形品は約20%収縮します。この「焼結における形状や寸法の変化」も気になるところです。ソフトウェアにより自動的に補正が入るのですが、形状や造形条件により収縮が不均一になることがありますので、試作は必ず必要となり、おもった形状を再現できないということもあるかと思います。

 

 

バインダージェッティング方式を採用する設備のご紹介

ExOne

ExOne社は、バインダージェッティング方式の3Dプリンターの製造販売を行っているメーカーであり、本社はアメリカにあります。2013年にはNASDAQでのIPOが完了し、上場しています。産業用バインダージェット3Dプリンタの新機種を続々とリリースし続けており、2019年にリリースした、「X1 160PRO」は、同社最大規模の3Dプリントシステムと銘打ち、800×500×400mm(160リットル)のビルドエンベロープと、最大10,000cm3/h(素材に応じて)の高速プリント機能を備えており、年間1万個の大型部品から、年間数十万個の小型部品までの大量生産および大規模生産に対応するといわれています。

ExOne社ホームページ

 

 

HP Metal Jet

 

HP(ヒューレットパッカード)社は、コンピュータ関連での最大手グローバル企業です。3Dプリンター分野においても大きなシェアを占めています。HPは自社の造形法を「メタルジェット」と呼び、金属射出成型(MIM)の3Dプリンター版であると説明しています。このメタルジェットシステムを採用した「HP Metal Jet」は、他社の金属3Dプリントシステムと比較し『50倍』の生産性を誇るといいます。また、ボクセル レベルの1200×1200dpiと高精細でなおかつ、最終金属パーツとしても使用可能な高い剛性を持っているともうたっています。

「HP Metal Jet」ホームページ

 

 

Degital Metal

このDegital Metal社はスウェーデンのヘガネスグループの3Dプリンターメーカー。同社がリリースする金属3Dプリンターは、1つの試作品から大量生産品まで対応可能な、複雑形状の小型金属部品製造に特化したバインダージェッティング方式であるとのことです。特長としては、「高寸法精度と優れた繰返し精度(MIM同等の寸法精度)」とうたっており、MIMの一般的な寸法精度は±0.5程度といわれいるので、このくらいの寸法精度なのか?それとも高精度MIM(0.1mm以下)に近い性能が出るのか、気になるところではありますね。

Degital Metal社ホームページ

 

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